ことごとくみどり

2013-02-03
story

ことごとくみどり

どういうわけか、ここにいる。

周囲にいる人間は確かに人間である。髪や瞳の色はまちまちで、緑、金、真っ赤、水色、とにかく様々だ。目が痛くなるほどに。建築物はヨーロッパ文化の匂いがするが、どこか違う。服装も奇抜だ。奇抜な者しかいない。何と形容したらいいものか、私は言葉を持たない。 

形容できないものならば、いくつでも挙げられる。しかし、それでも、私はこうして記述する。これはもはや義務である。この手記を残す事こそが、私の義務であるように感じられたのだ。

言葉、文化、容姿、何もかもが違った。耳の尖った人間もいれば、青い鱗を持つ化け物が町を闊歩する。人々は手の平から炎を発生させ、調理する。空を巨大なトカゲが飛ぶ。

全てが私の常識外だ。困惑以外、私にはできない。私の知る国ではない。私の知る世界ではない。 

謎の言葉で罵られ、首を傾げられ、指をさされ、もう疲れた。疲れ果ててしまった。知らない男に腕を掴まれ、追い立てられる。人かも分からぬ物に見つめられ、施しを受ける。色の白い女が体を寄せて来ても、何も思わない。皆、化け物だ。全てが恐ろしい。

もう発狂するより他はないだろう。疲れた。疲れ果ててしまったから。 

せめて、私がどういうわけかここにいたその証として手記を残そうと思う。何をどうするわけではない。何にもならない代物だ。ここの化け物たちには読めない代物だ。私の同類でなくては、理解できない言葉なのだから。 

とても恐ろしい、恐ろしい世界だ。ここでは到底、生きていけなどしない。全く持って……

※この文献はここで途切れている。何者が何の為に何を記入したかは未だに解明されていない。発見者によると、見た事も無いぼろ服を身にまとっていたらしい。他国から来たスパイとも考えられるが、浮浪者か精神錯乱者である可能性の方が高いだろう。後者であるとすれば、この文字の羅列も無意味だと考えられる。何にせよ、何も問題はないということだ。