目覚める人々
夢が覚める瞬間の、何と悲しいことか!頭が冴えてくると同時に、あの甘美な記憶はうすれていき、出逢うことは決して叶わないのだ。一夜の冒険談は塵となり、刹那の感情は屑になる。
私たちは朝日に屈服しなくてはならない。あの時確かに感じた思いが無くなっていく苦しみは、悲しみは、どんな慟哭にも及ぶまい。
麻薬のようだ。私たちが夢を求めるということは。常習性は麻薬の非ではないし、夢は何の害も与えない。そして罪ではない。現実を忘れるために、刺激的な体験をするために、他人になりすますために、夢を見る。何者にも規制することは出来ない。
あの感情を呼び起こすために、繰り返し繰り返し夢を見る。これを病と言うのなら、人間は、我々は生まれながらにして病人なのだ。
例え二度と見ることはないと知っていても、諦めることはしない。そもそも諦めると言う行為は存在しない。現実で生きるために、私たちは夢を見る。
そうして光が周囲を照らし出す頃、そ知らぬ顔で現実を歩き出す。