ある歌姫と悲劇の関係

2007-03-28
story

ある歌姫と悲劇の関係

歌を歌おう。これは愛した人へ送る歌。愛情そのものを届けるようにして歌おう。声が枯れるほど歌ってはいけない。あの人は私の声が好きだったから。聞こえる程度に小さく、響くように。まるで夜中にひそひそ話をするように。歌を歌おう。これは愛した人を送る歌。棺桶が揺れるまで歌おう。私の声は必要なくなったから。あの人はいってしまったから。

ああどうしようもない人だった。さいごまで。私の望みを何一つ、叶えてはくれなかった。ひどい男だった。とてもひどい、私の愛した人は。生きろ、そう言ったのだ。私に。置いていく私に向って。愛してもくれなかったくせに、生きろと言うのだ。愛しているの代わりに生きろと。そう言ったのだ。最後の呼吸と一緒に、その言葉を吐き出した。私は見ていたのだ、その様子を。じっくりと。好きだと言ったのは私の声だけで、愛しているは言わず、生きろと言って、そうして死んだ。どうしろと言うのか。すがりつけばいいのか。愛していると何度も叫べばいいのか、声があの人と一緒にいなくなるまで。そして泣けとでも?愛してくれない男のために。返事は決して返ってこないと知っているのに?悲劇。そうか悲劇なのかもしれない。最初からこの結末は決定されていたのだ。そうに違いない。愛していると言わないあの人は、私の首を、知らぬ間にひっそりと絞めていた。

ゆるり、ゆるりと。私はゆっくりと死んでいく。悲しみと、思惑に首を絞められて。十字架の代わりに不条理を背負い、あの丘に臨むのだ。愛している男のために。愛したあのひどい男のせいで。私はあの人に囚われている。あの人は私を愛している。きっと。きっと、あの人の方が私を愛してくれているのだ。生きろと言えば、あっけなく私が死ぬことをあの人は理解していた。