脳内活劇のち崩壊
ばかみたいな声をあげた男がいる。
「ああああなんて世の中だ。ああああおそろしいおそろしい」
ばかみたいに声を荒げた男は、そいつに向って叫んだ。叫んだと言っても、その声はとても穏やかで、静かだった。ただ私が男の心情を察して、あえて叫んだと表記したまでだ。
「だったら何で生きているんだ」
ばたりと、男が死んだ。声をあげた男か、荒げた男か、どっちでも私は構わなかった。どちらにせよ、一人減ったのだ。
私は組んでいた足をほどき、優雅に立ちあがった。
「さあて、始めようか。これは駆除だ。増え続けた私たちを消すゲーム」
私は近くにいた小さな女の子の頭をつかんだ。「残念だね、こんな場所に生れなければよかった」そのまま遠くへ投げ捨てた。悲鳴とも怒声ともつかない声を残して、女の子は消えていった。
「はてさて」
私は両手を何度か軽く叩いて、残った私たちの注目を集めた。びくりともせず私を見つめる姿は滑稽で、思わず笑みがこぼれた。
「たった一人の、脳内の中で。精神的出産の産物ともとれる私たち。果たしてこれは生かね?どうだ、そこの君」
ぱっと指を指すと、そこにいた老婆が慌てて声をあげた。
「ノー!あたしたちは生きていない。ゲームの中の人間と同じ。リアリティに欠けた存在」
しわがれた声でそう言うと、他の私たちは口ぐちにそれを肯定し始める。私はぱん、と一度だけ両手を叩いて私たちを黙らせた。「そう、その通りだろう」そっと、老婆の両手を握ると、老婆は声も出せないままフッと消えた。「ならば!」私はぐるりと、一周し、周囲を見渡した。
「ならば、私たちの一切合財なんて、何の価値も無いじゃないか。私たちは私に戻るべきだ。私たちは、私を自立させるべきだ」
私は大きく両手を掲げた。さっきまでこの両手が手を叩いていたと思うとおかしくて仕方なかった。
「私たちの生も死も無も有も。まるで一時の病だ、夢だ、もしかしたら戯れでしかない。だったら最高におどけてやろうじゃないか。小奇麗な終幕よりもスマートじゃないか?ええ?」