メッセージ終了

2007-02-19
story

メッセージ終了

蛭児を探していた。可哀想なあの子を。川を流れて行ったはずだ。確か、ここから私たちはあの子を捨てた。穏やかな川を見つめると、心臓が痛んだ。あの子の姿は見つからない。流れにそって、川下へと歩く。途中で老夫婦にでも拾われただろうか。そうならいい、と思いながら歩き続けた。

幸せに生きていて欲しい。今でもあの子の幸せを祈るのは高慢だろうか。愛しいのだ。今更になって。あの子はきっと全てを恨んでいるだろうけれど。私はようやく、あの子の全てを受け入れる準備ができたのだ。遅すぎる、とは分かっているけれど。愚かしいと、自分が一番分かっていた。

川下を歩いていくと、ぼろを着た少年に出会った。ぎらぎらとした瞳。ぼさぼさで、一度もとかしたことが無さそうな髪。彼が捨て子だとすぐに分かった。何も信用していない顔だったのだ。私が、あの子を探しているんです、知りませんか、と尋ねると、彼は静かな怒りをもらした。

「親ってのはわがままだ。自分勝手に後悔して」

侮蔑と憎悪がそこに込められているのに、なぜか私は悲しくなった。そうか、彼の親はそれさえもしてくれなかったのだ。恋しさは、彼と可哀想なあの子を重ねたせい。小さな頭を撫でてやると、彼は一瞬泣きそうになり、走って何処かへ消えてしまった。彼には、帰る場所があるのだろうか。

私は遠くに見える海を見た。そして、歩き出した。あの子を探して。

とうとう海までやってきた。道中誰にも会わなかった。日はとうに暮れている。どうしようか、と考えていると、ぷかぷかと浮かぶくらげが目に入った。私は海を覗き込み、くらげに尋ねた。

「私の愛しい、可哀想なあの子を知りませんか」
「あの子か。あの子なら海になったさ。私はそうなるまでを見ていたが、うんともすんとも言わなかった」

くらげがそう言い終わり、数秒の沈黙があった。大きな波がくる。私はさっと海から離れたが、くらげはそうもいかない。あっと小さな悲鳴をあげて、遠くの海へと消えていった。大きな声でありがとうと言ってみたが、くらげに聞こえたかは分からない。

私は帰ることにした。あの子は海になったのだから。あそこは母親の胎内だと言う。やっとあの子は母親というものを知ったのだ。私の役目はない。私は海に向かって深々と頭を下げた。真っ暗になった海に星や月明かりが反射する。

あんたはわがままだ。どこかの捨て子が、そういったような気がした。私はただ黙って唇を噛んだ。