桜埋葬説

2007-02-16
story

桜埋葬説

桜の木の下に立つ。満開だった。淡く、美しい桜の花びらがはらはらと落ちる。涙のようだ。誰かが、あの桜の色は血液を吸収して構成されている、と言っていた。本当は純粋そうな白い花だけれど、血液を摂取しているせいで、ほんのり赤くなるのだと。

この桜はまさにそうだった。何かの犠牲の上で成り立つ色。それゆえに儚い。しぶとく、生に執着するような散り様に、僕はひたすら目を向けていた。生にすがりつきたがるのは、何も人間だけではない。必死なのだ、どいつもこいつも。でなくては意味がないのだ。世界で生きることは。

「血液をちょうだい。もっと、濃く、長く生きていたい」

僕は埋もれた。そこはとてもきれいな場所で、とても歪んだ世界だった。肌にざわざわと何かが吸い付いた。淡く色づいた世界が広がっていく。桜色を通り越して、赤。まっか。

僕はその鮮やかな世界が広がっていくと同時に、視界がぼやけていくのを感じた。ああこの腕にあるのは桜の根なのだ。あの鮮やかな色は、僕の体内を駆け巡っていたあの血液なのだ。

「広い場所へ流れていける。ありがとう!」

「いいえ。血液さえ良ければ、どこへでもお行き」

僕はずいぶんと心地が良かった。桜がみせる最後の幻想か。それとも僕の独りよがりな満足感か。血液はずいぶんと嬉しそうに流れていく。持ち主の僕を気にしていない。僕も、血液がどこへ行くかなんて気にしてはいないが、それはそれで寂しさがあった。

誰かが言った。桜の色は何かの血液で色づくのだと。死に際を求めて、それでも死ねなかったものの血液で色づくのだと。僕はやっと眠りにつける。ずいぶんと探し回った。僕の棺。血液は一緒に寝るのを嫌がったけれど、桜は子守唄を歌ってくれるようだ。

「やっと死ねる。ごめんなさい、ありがとう。君は大変な思いをしているね」

「君は死ぬ。でも、だから、私は生きているんだよ」

桜は最後に透明な雫を一滴、僕の腕に垂らした。