アンビバレンスが突き進む
僕は人殺しだ。偶然でも必然でも、法と規律の前に、そんなものは必要なかった。人を殺した。それだけが罪なのだ。そう言う風に、何世紀も前から決まっている。
裁判官が僕の罰を読み上げる。
「おしまいの先を見つめなさい」
ハッピーエンドの向こう側を探しに行った。
ハッピーエンドの終わりを見に行った。
ハッピーエンド、ハッピーエンド。狂った乞食の老婆が歌い続ける。
悪者は嘆き悲しみ苦しみ、死んだ。まるで地獄のようだ。まるで狂気のようだ。純粋なまでの憎悪が彼らの心臓を射抜いていた。
善人は喜び笑い楽しみ、生きた。まるで天国のようだ。まるで子供のようだ。残酷なまでの幸福が彼らの体を照らしていた。
ハッピーエンドの裏側は、まるで地獄と天国が混在しているようだった。僕はここにいたくなくて、真っ直ぐ前を見て駆け出した。とても恐ろしい場所を見てしまった。ここは、とても深く暗い。
ハッピーエンド、ハッピーエンド。乞食の老婆が歌い続ける。ハッピーエンド、ハッピーエンド。僕は耳をふさいだ。
不幸だ。ハッピーエンド。不吉だ。あれを幸福だと、僕は思いたくない。あれは呪いだ。間違いなく。
「全ての人間が幸せになることなんて無いんだよ」
神様まるでゲームのようです。勝敗がこの世界にはあるのです。全てに付きまとうのです。僕が見たハッピーエンドはとても空虚なものだった。
バッドエンドの果てを見に行った。
バッドエンドは終わっていた。
バッドエンド、と僕は何度も繰り返しつぶやいた。バッドエンド、バッドエンド。誰も歌ってくれなかったからだ。バッドエンド、バッドエンド。
バッドエンドの向こう側は、とても暗く冷たく悲しみに満ちていた。大きなゲームオーバーと言う文字が周囲を照らす。ジエンドと言う文字が鈍く重く点滅する。
オーバー。それが全てだ。
あらゆる人間が倒れていた。ここに境界は無い。黒人も動物も女も老人も親子も夫婦も国王も奴隷も貴族も善人も罪人も関係無かった。殺し殺され死ぬだけだった。誰もかれもが涙を流し、どいつもこいつも傷付いていた。
オーバー。
まさしく終焉だった。アンダーグラウンドの平等。全ての人間が幸せにはならないけれど、全ての人間が不幸にまみれ、悲しみをその瞳に映し、憎しみをその口から吐く。
オーバー。それだけ。
さよなら。僕はどこへ向かえばいいんだろう。