胎動の一瞬

2007-12-08
story

胎動の一瞬

僕の中の小さなものが深く心臓につきささっていく。それはまるで海の中に沈んでいくような心地だった。ちょうどいま、みている海のような。この海はとてもとても黒い。もしも今が夜だったなら、その存在には誰も気づかなかっただろう。ましてやそこへ沈み行く僕の姿は、まさしく闇で溺れるように映ったことだろう。

太陽が赤く黄色く青く輝いているにも関わらず、海は一切の輝きを許さない。範囲外だと言うように、光は海へ届かない。

僕の中で深く深くつきささったそれは、ずぶずぶとつきささる。僕に致命傷を与える。僕の心臓を奪い去る。一片の隙もなく。一部の油断もなく。一縷の望みもなく。取り返そうにも、奪い去り消えていったものが何なのか分からない。

心臓がないことで生じるはずの不都合もない。いっそこの状態である方が良いのでは、と思うほど。かすかに怒りや不安も感じるが、それをぶつけようにも心臓がない。その先へ進めない。心も臓器も亡くしてしまった。僕はもう。

呆然としたまま、真っ暗な海をながめた。いつかはあそこへ帰るのだ。それは予感。それはあまりにも遠い時。これは願い。望むことはそれ自体がすでに幸福を孕んでいるのだ。黒い海に向かって「生きたい」とつぶやいた。

僕は恐れている。ただただ。海もしくは神様が、運命が「いきたい」と言う音だけを拾ってしまわないかどうか。涙がこぼれて止まらない。

捨てることを拒絶してはいないか?君の心臓のきしみが。