嘲笑し、罵るアバドン

2011-07-02
story

嘲笑し、罵るアバドン

ぼんやりとした半月の下で、小柄な男たちが一か所に集まり、穴を掘っている。ぎゅうぎゅうに密着したその様子は何とも見苦しく、暑苦しい。

「穴を掘れ、二つ掘れ」

小柄な集団の内、誰かが歌うようにそう言った。

「なぜ、なぜ二つ掘る」

別の誰かが、同じく歌うようにそう返す。先程の男らしき声がそれにまた返答した。やはり歌うように。

「必要だからだ。墓穴は二つ必要なのだ」

ざわざわと動揺ともつかないざわめき。穴を掘る手は誰も止めない。ただ深くなり、ただ広くなる。二つの穴はわずかに近付くものの、それでも独立を保っている。

「墓か」

穴を掘る。

「墓なのか」

穴を掘る。

「我々のこれは墓なのか」

穴を掘る。

「誰のものだ」

穴を掘る。

「誰のものなのだ」

ざわめきは止まない。しかし、穴を掘り進めることも終わらなかった。二つの隣り合った墓穴は、大きく、そして深くなる。しかしその二つが繋がり合うことは決してなかった。

「誰の墓穴だ?」

その問いに、最初の男がショベルを振り上げながら答えた。

「そこのドアから入ってくる者の墓穴だ」

バッと全員がドアをみた。薄暗がりにたった一つだけ置かれた、赤茶けたドア。金色のドアノブが錆びついている。荒れ果てた荒野にぽつんと置かれたそれは異色であった。

「墓穴は二つ掘れ。何かを呪って死んだ者は死者を一人連れてくる。何かを祈って死んだ者は死者が一人ついてくる。そういうものだ」

ざくざくと、左の穴を掘り進める男が言う。

「そうか」

墓を掘る。

「そうだ」

墓を掘る。

「そういうものだ」

墓を掘る。

ざわざわと、小柄な男たちは一斉に同意する。しかし、右の穴を掘り進める男の一人が疑問を投げかけた。

「それでは墓標は二つ必要か」
「いいや不要だ。墓標は一つでいい。無くても構いやしない。誰も弔うことをしないのだから」

その声を最後に、男たちはまたしばらく無言のまま穴を掘り続けた。二つの穴はどこまでも深く、深く、広い。しかし決して一つの穴にはならなかった。ショベルで削り取った土は、再び穴に還っていくようになる。

月の光すら届かなくなり、もはやどこにいるのかも分からなくなった頃、小柄な男たちは小さな声で歌を唄いはじめた。

「呪え、祈れ、死人のように。死体と共に罵れ笑え。不吉を背負って登れ登れ。あの丘はそう高くはないぞ。あの国はそう遠くはないぞ。かの穴はとても深い深い。かの業はとても深い深い」

穴はどんどん掘り進められていく。きっともう太陽の光は届かない。いつかの獣を閉じ込めた穴よりも深く、広く、暗く、そして大きい。